どうして日本のルアーは高いのか
私はかれこれ20年あまりボーマーのモデルAを巻いておりますが、これは大体の店で900円程度のルアーです。ザラも1000円程度、ジッターバグも1000円前後です。ただ、アメリカのルアーショップに行けば、モデルAは5ドル、ザラは6〜7ドル、ジッターバグは5ドルと非常に安価です。輸入品ですから、国内で仕入れて売るのに色々と費用が上乗せされるのは当然ですが、では、輸入品でもなく、国産ハンドメイドでもないはずの日本のルアーがなぜ1200〜1500円もするのでしょうか。今回は「ルアーの価格」について20年来のルアーマンである私が説教を交えて昔話をいたします。

1970年代:それはナウなヤングからはじまった

バスフィッシングをここ10年程度ではじめた方にはわからないどころか、想像もできない時代でしょうか。1970年代といえば、巨人、大鵬、卵焼きなどといわれ、巨人がV9を達成したり、ボウリングがブームになったりと、今の50代の人が聞いたら涙する「旧き良き日本」の代表選手です。このイケイケドンドンだった時代に、めざといナウなヤングにバカウケしたのが「バスフィッシング」だったのです。ちなみに、ナウなヤングにバカウケはバブル時代の言葉ですが、90年前後の若者は口にせず、その上の40〜50代が口にする死語の代表格でした。

さて、このバスフィッシング。日本ではまだまだ未発展。アメリカのスタイルをそっくりそのままもってきただけのものでした。もちろんルアーも海外製。日本にやってきたルアーは諸々経費が乗っかって店頭価格で7〜10ドルといったところ。もちろん、ここは日本ですからドル建てではなく円での支払いとなります。ここが大きなポイントです。

当時日本は戦後の経済発展の中にあり、猛烈なインフレの最中にありました。終戦直後1ドル15円だった円ドルレートは、30年も経たぬうちにみるみる上がり、1ドル360円の固定相場に落ち着きます。その後ベトナム戦争が起こり、ニクソンショックで固定相場は崩壊。ドルは300円程度のものだという認識に落ち着きました。そして、このころ日本のルアーメーカーが本格的に事業参入に動き出したのです。つまり、1ドル300円という前提で日本のルアーの価格設定がはじまったわけです。アメリカのルアーは1つ8ドルくらいだ。8×300でもって2400円。ルアーはひとつ2400円くらいのものなんだ。というのがルアーメーカーの共通認識だったんですね。これが後々、日本のルアーマンの悲劇を産み出す序章となるわけです。


1980年前後:日本のルアーの価格形成とバブルの足音

ルアーはひとつ8ドル2400円。といっていたのは今や昔。度重なる世情不安や円高傾向が強まったために起こったスタグフレーション、オイルショックにアフガン侵攻…社会科の勉強をしているわけではないのでこの辺にしておきますが、とにもかくにも、1ドル300円時代は終わり、200円時代が到来したわけです。おやおや、大変なことになりましたね。何がって?ルアーはひとつ8ドルだったはずですよ。8×200で1600円じゃあないですか。いやはや参った。ルアーメーカーのビジネスモデルは完全に崩壊してしまいました。

と、いかなかったのが日本の不運なのです。


1990年前後:バブル崩壊とバスフィッシングバブルの到来

円ドルレートは急転直下に急上昇。バブルの前後で異常な乱高下を見せます。それでもアメリカのルアーは変わらず5ドル。でっぷり太った頭頂部の薄いおっちゃんがにこやかに笑って5ドルで売ってくれるわけで、レートの問題は日本にしか関係のないことだったわけです。バブルの末期は1ドル80円の円高。日本のルアーもアメリカのルアーの店頭価格を参考にして値付けをしたなら、8×80の640円にするのがものの道理ってものですが、バブル景気で猫も杓子も半狂乱。バブルがはじけてもバスフィッシングバブルがやってきたものだから熱はまるで冷めやらぬといった調子。一個1500円でルアーを売っても平気のへっちゃら。飛ぶように売れていく。これが当たり前のこととなり、レートが変わろうが何をしようが、日本のルアーは1500円になってしまいました。同時に、国産だから高いのは当然。海外の物はダメに違いない。安物だ。釣れやしないという偏見が染み付いていったのです。

では、アメリカのルアーは品質が下がったのでしょうか?一切の改良も加えられず、70年代のころのまま打ち捨てられていたのでしょうか。もちろんそんなことはありません。アメリカのルアーは常に発展し、ノウハウを蓄積しながらも、相も変わらず5ドル(1ドル100円換算で500円)だったのです。一方日本のルアーはといえば1500円ですから、3倍は釣れてくれなければ割に合いません。…3倍、釣れますか?


※当時のバスバブルのすさまじさは釣具界のオーパーツとも呼ばれる初代アンタレスを見ればわかることでして、それはそれはトンでもなかったのです。


それでも日本のルアーは安くならない

皆さんは100円ショップに行かれますか?私はときおり、ふらりと大型店に行くことがあります。するとそこには立派なペインティングがなされたミノーやバイブレーションプラグがあります。アメリカのルアーではなく、国産ルアーと比較しても遜色ないようなハンドメイドフィニッシュ。すばらしい造型です。100円ショップなので、2013年現在で税込105円。それで利益が出ているわけですよね。儲からないなら置いてないはずですからね。105円だから釣れないかっていえばそんなことはなく、イッチョマエな動きをするルアーもあります。チューニングが必須だったり、フックの交換が必要なことも多いのですが、あれはまごうことなきルアーです。

105円のルアー、アメリカの5ドルのルアーに対して、日本のルアーはどう動いたか。答えは「何もしなかった」です。元々2400円で売っていたもの。それを1500円にした。それだけでも暴利を貪っていたと糾弾されても仕方ないのに、ここで更にホイホイ値段を下げるなんてことはできやしないのです。本当は1000円以内で十分成り立つ商売なのに、一度消費者をたばかったばっかりに、引くに引けなくなってしまったのです。バブルにあぐらをかき、殿様商売で経営努力もせず、都合の悪いプロやアングラーを切り捨ててきた業界です。釣り雑誌も示し合わせたかのようにアメリカのルアーについて語らなくなりました。日本のメーカーが過去の暴利について「悪ィ!」くらいでもいいので反省の弁を唱え、真摯にルアーフィッシングの発展に向き合わない限り、日本のルアーは安くなりませんし、釣れるようにもならないのです。

過激な締めになってしまいましたが、ルアーの今昔物語とお説教はこれでお開きとさせていただきます。日本のルアーが安くて釣れるようになる日がくることを心より願っております。

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